ホテル椿園女将 清水勝子さん

“災害の伝承”と共にご支援に対する“感謝の気持”も伝えたい

伊豆大島に暮らす人にお会いし、お話をお伺いする企画、その名も「島人Focus」。
今回は2013年10月16日未明に発生した台風26号による土砂災害により大きな被害を受けたホテル椿園、その女将である清水勝子さんに悩みながらも災害体験を伝えている「語り部(かたりべ)」の活動についてお話を伺いました。

-語り部の活動をはじめるようになったきっかけを教えてください

これまで大島の人たちは島の自然の中で暮らし、台風・地震・大火・噴火も経験して防災に対しての意識も高いと思っていました。それなのに知り合いや近所の方々が犠牲になってしまい、もの凄くショックを受けました。

庭園やホテルを目がけて土砂と共に倒木や瓦礫など様々なものが押し寄せ、ホテル1階部分は土砂で埋まりました。被害が大きく、これまでの生活や財産だけでなく歴史さえも奪われた喪失感の一方で、宿泊のお客様と家族スタッフが皆無事だったことに深い安堵感を覚えました。犠牲者をださないためには、そして、被害を少なくするにはどうしたらいいのか考えていくことが必要だと思いました。

災害発生以降、多くのボランティアの方が活動されてきましたが、ホテル椿園でもボランティアの方々に大変お世話になりました。ボランティアの方々より「報道より被害がひどい」「館内を見てもいいですか」「写真に撮ってもいいですか」「当時の様子はどうでしたか」など問われました。初めは亡くなられた方々やそのご家族のことを考えると胸が痛み答えられませんでしたが、一緒に片付け作業をしていくうちに、この災害をしっかり伝えていかなくてはと、少しずつ話していけるようになってきたんです。

ボランティアで来てくれていた中小企業診断士の川口先生と出会ったのはそんな時でした。まだまだ生活の見通しも立たず頭の中は真っ白で、再建のためになにができるか一緒に考えてくれることになりました。応援してくれるお気持ちがとても嬉しく、“奇跡的に生かされたのなら私がその体験を伝えていこう”と「語り部」を始めました。

-語り部ではどのようなことを伝えているのですか?

私はホテルの敷地内で起きたことしか分からないので、被災から残った建物の中や屋上に上がり、当時の状況や被災した気持などを話しています。

被災は辛い経験でしたが、大勢の方々に温かい励ましの言葉や、応援を頂きました。たくさんの出会いもありました。ですから“災害の伝承”、と共にご支援に対する”感謝の気持”も伝えていきたいと思います。

災害を忘れず皆で知恵を出し合い被害を少なくするためにも、これからも「あなたは台風の時どう備えていますか?」と語りかけたいと考えています。

-学生団体「夏ゼミ」がリノベーションした椿亭も災害で流されてしまいましたね

建築を学ぶ6つの大学の学生さんからなる「夏ゼミ」という団体から合宿して何かを行いたいとの申し出があり、災害の前年(2012年9月)に椿園の離れ『椿亭』で夏ゼミの皆さんとイベントを催しました。若い方の感性や真摯な姿を拝見し、これからの島には貴重な力だと感じました。リノベーションして頂いた『椿亭』の建物が土砂に流されてなくなってしまったのは残念でしたが、ホテル椿園創業者 藤井豊乃輔(初代町長)のハワイ島との姉妹島締結時の貴重な写真などを「大島の共通の財産にしたい」と展示し、地域の方々に見て頂くことができ、とてもよい思い出になりました。義父や義母が喜んでくれて親孝行出来たと感謝しています。

災害後、夏ゼミの方が訪れてくださいました。更地になった場所から展示していた作品の一部を見つけしみじみと合宿の様子や作品への思いを語っていて、ホテル椿園には私たちだけの思い出だけでなく皆さんの思いもたくさん詰まっているのだと感じました。椿亭がつなげてくれたご縁はこれからも大島の中で続いていって欲しいと願っています。

-ホテルの敷地に咲く椿の花でポストカードを制作されましたね

この災害で様々な方からたくさんのご支援を頂きました。その中に書家・佐々木 久枝さん制作のポストカード支援がありました。

被災してホテルの敷地の中にはたくさんの土砂が流れてきたのですが、不思議と残った建物や樹木もありました。被災した地にたくましく可憐に咲く椿の花を摘み作品を作って下さいました。椿園の象徴とも云えるやぶ椿を”復興のシンボル”として制作して下さった作者の方の思いが凄く私の胸に響きました。

大勢の方から励まして頂き感謝の気持で一杯です。心からお礼申し上げます。どんな形になるか分かりませんが、被災に負けず今やれることを頑張っていこうと思います。ありがとうございました。

-清水 勝子さんの前向きに取り組む姿勢にとても心打たれました。人は多くの人の支えがあるからこそ生きられる。そのことを清水さんとお話する中であらためて気づかされました。清水さんが一日も早く以前のような平穏な生活を取り戻せるよう願っています。

清水勝子さん

清水 勝子

ホテル椿園女将(問い合わせ先:民宿『美芳』)

〒100-0101 東京都大島町元町1-17-8

04992-2-1111